教育資金の一括贈与は相続税対策にならない?

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教育資金の一括贈与は相続税対策にならない?

教育資金の一括贈与と結婚・子育て資金の一括贈与の共通点

 贈与税は暦年課税が基本となっており、財産を複数年度にわけて贈与されることが前提で税率が設定されているため、贈与税の税率は相続税の税率よりも高く設定されています。
 しかし、多額の財産を一括で贈与したいという需要が社会には存在し、相続税の節税の目的ではなく、自然な経済活動であるのであれば、それを税制によって制限されてしまうのは好ましいことではありません。
 そこで、財産を一括で贈与しても優遇される制度が設けられています。
 相続時精算課税贈与、住宅取得等資金贈与、教育資金の一括贈与、結婚・子育て資金の一括贈与、おしどり贈与など、一括贈与の優遇制度がありますが、これから説明する教育資金の一括贈与と結婚・子育て資金の一括贈与には、以下の共通点があります。

  1. 通常多額の資金が一回で必要になるわけではなく、本来一括贈与の必然性が無い。
  2. 信託銀行等に専用口座を開設し、必要の都度領収書等を提示し資金を引き出す。

 一括贈与の必然性が無い贈与を一括贈与すると、その後本当に教育資金や結婚・子育てに使われるのか管理する必要が生じるため、信託銀行等に管理してもらうという制度になっています。


教育資金の一括贈与と結婚・子育て資金の一括贈与の比較

2つの一括贈与を比較すると以下の通りです。
「資金管理契約の終了の日までに贈与者が死亡した場合」に、教育資金の一括贈与の場合には相続税が課税されない場合があるのが重要な違いです。


教育資金の一括贈与 結婚・子育て資金の一括贈与
贈与期限 2026年(令和8年)3月31日まで 2027年(令和9年)3月31日まで
贈与者 受贈者の直系尊属(主に祖父母) 受贈者の直系尊属(主に父母・祖父母)
受贈者 30歳未満 18歳以上50歳未満
限度額

1人につき1,500万円
(ただし学校等以外は500万円)

1人につき1,000万円
(ただし結婚費用は300万円)

資金管理契約の終了の日までに贈与者が死亡した場合

受贈者については、贈与者が死亡した日における管理残額を贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなして、相続税が課税される。
ただし、下記の@〜Bのいずれかの場合に該当する場合を除く(※1)
@贈与者の死亡の日において受贈者が23歳未満である
A学校等に在学している
B教育訓練を受けている

受贈者については、贈与者が死亡した日における管理残額を贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなして、相続税が課税される。
相続税額の2割加算の適用 管理残額について孫などに相続税が課税される場合、相続税額の2割加算の対象
終了事由 次のいずれか早い日
終了事由@(年齢等)

a.受贈者が30歳に達したこと
(30歳に達した日において学校等に在学していること など一定の場合を除く)
b.30歳以上の受贈者がその年中において学校等に在学した日など一定の場合に取扱金融機関の営業所等に届け出なかったこと
c.受贈者が40歳に達したこと

受贈者が50歳に達したこと
終了事由A(受贈者死亡) 受贈者が死亡したこと
終了事由B(管理残額ゼロ) 信託財産等の価額がゼロとなり、終了の合意があったこと

終了時の課税
(贈与税)

終了事由@(年齢等)(※2)
贈与者生存…「残額」(※3)につき、相続時精算課税選択可
贈与者が既に死亡…「残額」(※3)につき、暦年課税(一般税率)のみ(※4)

終了事由@(年齢等)(※2)
贈与者生存…「残額」(※3)につき、相続時精算課税選択可
贈与者が既に死亡…「残額」(※3)につき、暦年課税(一般税率)のみ(※5)

終了時の非課税
(贈与税)

終了事由A(受贈者死亡)
「残額」(※3)につき、贈与税の課税なし

(※1)贈与者に係る相続税の課税価格の合計額が5億円以下の場合のみ
(※2)教育資金もしくは結婚・子育て資金以外の支出があった場合は「終了事由B(管理残額ゼロ)」を含む
(※3)「残額」=非課税拠出額−教育資金もしくは結婚・子育て資金支出額
 =「管理残額」+教育資金もしくは結婚・子育て資金以外の支出額
 教育資金以外あるいは結婚・子育て資金以外の支出は通常認められないため、通常は「残額」=「管理残額」となります。
(※4)贈与者死亡時に相続税課税済みの場合には、教育資金以外の支出が無ければ贈与税課税無し
(※5)贈与者死亡時に相続税課税済みのため、結婚・子育て資金以外の支出が無ければ贈与税課税無し


教育資金の一括贈与と結婚・子育て資金の一括贈与の利用実績

  • 教育資金の一括贈与の令和6年3月末時点の信託の利用実績(累計)  契約件数:26万8,182件(平成25年4月〜) 
  • 結婚・子育て資金の一括贈与の令和6年3月末時点の信託の利用実績(累計) 契約件数:7,787件(平成27年4月〜)

 教育資金の一括贈与と比較すると、結婚・子育て資金贈与の利用実績が極端に少ないです。
 なお、相続税の申告件数はだいたい年間15万件程度です。
 教育資金も結婚・子育て資金も扶養義務者から必要な都度直接これらに充てられるために取得した財産であれば贈与税は非課税となります。


結婚・子育て資金の一括贈与はなぜ人気が無いのか?

 結婚・子育て資金の一括贈与は、子にも孫にも贈与されることが想定されます。
 親や祖父母は一般的には一括贈与というものには消極的です。
 親や祖父母は、老後の生活の心配もあるし、必要な都度子や孫にお願いされて贈与することで、子や孫にかかわり続けたいと思うものです。
 それでも相続税や贈与税が大幅に減額されるというメリットがあれば、親や祖父母も一括贈与を考えてみようかと思うかもしれません。
 課税関係は以下のようになります。

  1. 管理残額がある状態で贈与者が死亡した場合は、相続税
  2. 残額がある状態で受贈者が50歳に達した場合は、贈与税(相続時精算課税選択可)

 必要の都度贈与された財産が非課税なので、結婚・子育て資金の一括贈与は、利用してもしなくても非課税で贈与できることには変わりません。
 むしろ、残額がある状態で受贈者が50歳に達した場合に、暦年課税贈与として贈与税申告を行う場合には、特例税率ではなく一般税率が適用されるため、デメリットです。
 しかし、よほど財産が多額になければ、令和6年度から改正されて基礎控除110万円が新設された相続時精算課税を終了時の贈与税申告のときに選択すれば、暦年課税贈与で一般税率が適用されてしまうというデメリットは解消されることになります。
 この点は、年間110万円を超える贈与を行って、相続税の税率よりも低い税率で贈与税を負担することによって財産を減らしておきたいという「超富裕層」以外の方々にとっては、相続時精算課税の改正によって逃げ道ができ、結婚・子育て資金の一括贈与を選択することによって、相続税贈与税の負担はあまり変わらないということになります。




一括贈与は認知症対策になる?

 また、認知症を患ってしまい意思能力を喪失してしまうと、必要の都度贈与をするということができなくなってしまいます。意思能力を喪失してしまった親や祖父母のお金をATMから引き出すことができたとしても、贈与ではなく勝手に搾取された財産として、相続のときには返還請求権として財産計上しなければならなくなります。
 この点は、意思能力があるうちに一括贈与してもらえば、その心配が無くなり大きなメリットであり、民事信託も対策としては考えられますが、一括贈与の方が民事信託よりは手続き面では手軽です。


一括贈与された信託は中途解約できない

 逆に大きなデメリットとしては、中途解約ができないということです。
 一括贈与の後で贈与者である親や祖父母の生活費が足りなくなったり、受贈者である子や孫の生活費が足りなくなったり、一括贈与の信託財産が余ったりしても、途中で解約ができません。
 信託財産は、受贈者の子供が小学校に就学した後の教育費等に使うことができません。
 例えば、受贈者が35歳のときに子供が小学校に就学し、信託財産の管理残額が残ってしまったとすると、受贈者が50歳になるまで、15年間は解約することができず、管理残額がそのまま残り続けることになってしまいます。
 受贈者の子供が大学に入学する年齢になって多額の教育費がかかることになっても、解約することができないということになります。
 贈与者側からすると、子や孫が結婚するかしないかが分からない状況、あるいは、結婚しても出産するかしないかや不妊治療を受けるか受けないかが分からない状況で、事前に一括贈与をするにしても、いくら贈与して良いかの予測が困難なため、結局都度贈与ということになってしまうと思います。
 認知症への対策としても、贈与者の孫が就学までの間では、贈与者が70歳くらいということになり、まだ認知症を患う可能性も低いと思われ、認知症への対策として結婚・子育て資金の一括贈与を利用するのであれば、孫の結婚が決まったときに、結婚費用プラスアルファを一括贈与するというのが有効かもしれません。


中途解約できないことがメリットにもなる?

 他の贈与者側の一括贈与のメリットとしては、子や孫に結婚・子育てにしか使えない資金を一括贈与することによって、結婚や出産に消極的な子や孫に、結婚や出産をするように動機づけを与えることができることがあります。
 出産後も受贈者の子供が就学した後には教育費等に使うこともできずに、受贈者が50歳になるまでの間は解約することができないので、お金があると「一人っ子に私立の小学校に行かせたり、習い事をたくさんさせよう。」という考えに向かいがちな受贈者に、第二子を出産することにお金を使うしかない、と思わせることができるかもしれません。
 あくまでも贈与なので、受け取りたくなければ断ることもできますが、例えば結婚してから結婚子育て資金の一括贈与を受ける場合、夫の側が一括贈与を受けてしまうと、「出産しなければいけないの?」とプレッシャーに感じてしまう妻もいるのではないでしょうか?
 政府としても少子化対策としてそういう狙いがあるのかもしれませんが、多様な生き方を求めるように時代が変化していく中で、支援という名目でプレッシャーを与えることが無いように配慮した方が良さそうです。


結婚・子育て資金の一括贈与のメリットとデメリット

 結婚・子育て資金の一括贈与によって、相続税や贈与税の税負担の上では、あまり大きいメリットやデメリットが無いということになりますが、認知症になって贈与ができなくなるという心配が無くなる、子や孫に結婚や出産に考えが向くように仕向けることができる、というメリットがあり、管理残額が長期間解約できないまま残ってしまうというデメリットがあります。
 結婚・子育て資金の一括贈与のメリットとデメリットをまとめると以下の通りです。


メリット
  1. 認知症を患っても子や孫への援助が中断されない。
  2. 管理残額も特別受益の持ち戻し計算から除外される。(孫への贈与の場合)
  3. 子や孫への結婚・出産への動機づけになる。
  4. 受贈者が50歳になった時点で残額がある場合には、相続時精算課税を選択できる。(贈与者が生存している場合)


デメリット
  1. 受贈者が50歳になるまで、中途解約ができない。
  2. 手続きに手間がかかる。
  3. 子や孫と関わる機会が減る。
  4. 受贈者にとってはプレッシャーになることがある。
  5. 受贈者が50歳になった時点で残額がある場合に、暦年課税を選択すると一般税率が適用され、贈与税の負担が重くなる。


 少子化対策の政策としては有効な側面があるので、政府としても廃止する理由は無く継続していくのだろうと思われますが、多様な生き方を認めることが求められる中で、よほどのメリットが生じるように改正しない限りは利用者は減っていくのだろうと思われます。


教育資金の一括贈与はメリットがあるのか?

 教育資金の一括贈与は、孫に対して贈与されることが想定されます。
 教育資金の一括贈与に関しては、年間当たりだと2万件くらい利用されている計算となり、結婚・子育て資金の一括贈与と比較すると多く利用されています。
 結婚・子育て資金と同様に、必要の都度贈与された財産が非課税なので、教育資金の一括贈与は、利用してもしなくても非課税で贈与できることには変わりません。
 また、認知症を患ってしまうと、孫への学費の贈与は認められなくなってしまうので、一括贈与が認知症対策になるのは、結婚・子育て資金の一括贈与と同様です。
 実際に必要が生じるのかどうかが確定しづらい結婚・子育て資金とは異なり、教育資金は孫が生まれれば多額の資金が必要になることが確実となると考えられており、教育資金の方が一括贈与に適していると言えます。


相続税・贈与税のメリットとデメリットが大きくなる場合とは?

 下の図の@とAについては、結婚・子育て資金贈与と終了の年齢が異なりますが、基本的な構造は似ています。
 しかし、教育資金の一括贈与は、下の図のBのように受贈者が23歳未満あるいは学校卒業前に贈与者が死亡してしまった場合に、結婚・子育て資金の一括贈与と異なるメリットやデメリットが生じてきます。
 孫の学費が必要な都度贈与しようとしていたけど、孫が大学を卒業する前に贈与者が死亡してしまった場合には、残りの学費分は孫の親である相続人が相続し相続税を負担した後に、孫の親が孫の学費を負担しなければなりません。
 しかし、教育資金の一括贈与を利用していれば、贈与者が死亡したときに管理残額に関して相続税を負担する必要が無くなります。(図B)
 それは、教育資金の一括贈与を利用する上での大きなメリットですが、残額が残ったまま受贈者が30歳になり、一括贈与信託が終了してしまった場合には、残額に対して贈与税が課税されます。(図B)贈与者が死亡した後で課税される残額については、相続時精算課税制度を選択することはできず、暦年課税贈与で贈与税申告しなければならないため、残額によっては贈与税率が高くなってしまい、高額な贈与税を負担することになります。



 この部分は、結婚・子育て資金の一括贈与と異なる大きなメリットもしくはデメリットとなるため気を付けたいところです。
 贈与者が急逝してしまう可能性を考慮すると、なるべく早く一括贈与をしてしまった方が、相続税負担を少なくすることが可能になりますが、結果的に受贈者が23歳未満あるいは学校卒業前に贈与者が死亡してしまった場合には、30歳までに管理残額を教育資金で使い切らないと、30歳で高額な贈与税を負担することになる可能性が出てきてしまいます。(図B)
 管理残額が残ってしまった場合には、30歳を過ぎても学校に在学し続ければ、管理残額を減らしながら贈与税を先延ばしすることができるかもしれませんが、受贈者も仕事や家事や育児で忙しくなれば、結局管理残額の中から贈与税を納税するというところに落ち着くという判断になるでしょう。
 教育資金の一括贈与については、「一括」とはいうものの、複数回に分けて贈与することができるので、贈与者の体調や受贈者の将来への希望などを考慮しながら、使い切れる額を複数回に分けて贈与するのが良いでしょう。


教育資金の一括贈与のメリットとデメリット

 教育資金の一括贈与のメリットとデメリットをまとめると以下の通りです。


メリット
  1. 認知症を患っても子や孫への援助が中断されない。
  2. 管理残額も特別受益の持ち戻し計算から除外される。(孫への贈与の場合)
  3. 受贈者が30歳になった等の終了時点で残額がある場合には、相続時精算課税を選択できる。(贈与者が生存している場合)(図@)
  4. 贈与者死亡時に受贈者が23歳未満もしくは在学中であれば、相続税が非課税になる。(図B)


デメリット
  1. 受贈者が30歳になるまで、中途解約ができない。
  2. 手続きに手間がかかる。
  3. 子や孫と関わる機会が減ってしまう。
  4. 受贈者が30歳になった時点で残額がある場合に、暦年課税を選択すると一般税率が適用され、贈与税の負担が重くなる。(贈与者が生存している場合)(図@)
  5. 贈与者死亡時に相続税が非課税だった場合で、その後、受贈者が30歳になった時点で残額がある場合には、相続時精算課税を選択できず贈与税の負担が重くなる。(図B)


 教育資金の一括贈与は、認知症への対策になることに加え、もし受贈者が学校卒業前に贈与者が死亡してしまった場合には、相続税や贈与税の軽減できる可能性があるため、結婚・子育て資金の一括贈与よりも利用者が多いですが、それほど利用者の全体に対する割合は多くありません。
 教育資金の一括贈与や結婚・子育て資金の一括贈与の非課税申告書は、受贈者が信託銀行等を通して税務署に提出されるため、税理士が関わる機会が少ないことや、制度が複雑であることなどにより、税理士に相談しても「都度贈与すればもともと非課税だから一括贈与のメリットはあまり無いですよ。」と一蹴されてしまうこともあるようです。
 しかし、相続税や贈与税などの税金対策について個別の事情を踏まえて客観的に相談できるのは、結局税理士しかおりませんので、なるべく税理士に相談してから行動に移すことをお勧めします。

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