渡り廊下でつながれた建物
渡り廊下でつながれた2棟の建物両方の敷地が居住の用に供されていたといえるのでしょうか?
租税特別措置法 第六十九条の四
「当該相続の開始の直前において、被相続人の居住の用に供されていた宅地等で建物の敷地の用に供されているもの」を小規模宅地の特例の対象とすることができます。
租税特別措置法施行令 第四十条の二 第4項
宅地等のうちに被相続人の居住の用以外の用に供されていた部分があるときは、被相続人の居住の用に供されていた部分に限るものとする。
被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物に係るものである場合には、当該一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分を含む。
建物の区分所有等に関する法律第一条の規定に該当する建物を除く。
建物の区分所有等に関する法律 第一条
一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。
渡り廊下でつながれた2棟の建物は、租税特別措置法施行令第四十条の二第4項の「一棟の建物」ではないため「被相続人の居住の用に供されていた部分」に係る敷地のみが小規模宅地の特例の適用対象となります。
渡り廊下でつながれた2棟の建物の場合、「区分登記されていなければ全体にできる、区分登記されていればできない」と誤解してしまっている専門家もいますが、区分登記の問題は、あくまでも「一棟の建物」の場合に生じるものであって、2棟の建物の場合は関係ありませんのでご注意ください。
それでは、渡り廊下でつながれた2棟の建物の敷地全体に小規模宅地の特例を適用する余地はないのでしょうか?
区分登記されていない「一棟の建物」であれば、「被相続人の親族の居住の用に供されていた部分」も対象になります。
しかし、2棟の建物の場合は、「被相続人の居住の用に供されていた部分」のみが対象になります。
つまり、2棟の建物両方を「被相続人の居住の用に供されていた部分」とみなすことができれば2棟の建物の敷地全体に小規模宅地の特例を適用可能となります。
構造上、台所、居間・食堂、浴室、洗面所及びトイレ等の設備が別々に備え付けられておらず、各棟が独立して生活できる構造になっていない状況で、かつ、被相続人が両方の建物の設備を使用しないと日常生活が成立しない場合には、2棟の建物両方を「被相続人の居住の用に供されていた部分」とみなすことができ、2棟の建物の敷地全体に小規模宅地の特例を適用可能となります。被相続人が、いずれか一方の建物のみで日常生活が成立してしまう状況の場合には、日常生活に使用しない方の建物に係る敷地には小規模宅地の特例を適用することができません。
したがって、2棟の建物の場合、渡り廊下でつながれているかいないかは、小規模宅地の特例を適用できるかどうかとは直接の関係は無く、被相続人が両方の建物の設備を使用しないと日常生活が成立しない状況であるかどうかが、小規模宅地の特例を適用できるかどうかのポイントになります。
さらに、建築基準法施行令第1条も関係してきます。
建築基準法施行令第1条
「敷地とは 一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地をいう」
とあり、用途上可分の建築物は一敷地に一の建築物しか建てられません。
つまり、1つの敷地に建てられる居住用建築物は1つが原則です。
1つの敷地に2つ以上居住用建築物を建てたい場合は、
しかし、離れは作ることができます。
生活に最低限必要な水回り3点セット(浴室、トイレ、台所)のうち1つでも欠けていれば離れとしてみなされ、母屋と同じ敷地内に建てることができます。
したがって、1つの敷地内に2つの建築物があれば、どちらか一方は必然的に離れとなり、被相続人が両方の建物の設備を使用しないと日常生活が成立しない場合には、2棟の建物両方を「被相続人の居住の用に供されていた部分」とみなすことができ、2棟の建物の敷地全体に小規模宅地の特例を適用可能となります。
ただし、ここで言われている「1つの敷地」は必ずしも不動産登記上「分筆」された敷地ではなく、建築基準法上「分割」された敷地となります。
建築基準法上「分割」された敷地は、
- 既存の建物と新築の建物の敷地がそれぞれ巾4m以上の道路に2m以上接道しているか。
- 建ぺい率や容積率といった建築上の法規にそれぞれの建物が適合しているか。
等の基準を満たす必要があります。
ここでもわかる通り、建築基準法でも、「渡り廊下」は関係ありません。
「渡り廊下」でつながれた建物が「一棟の建物」とみなされるには?
それでは、「渡り廊下」でつながれた建物が「一棟の建物」とみなされる余地はないのでしょうか?
「渡り廊下」でつながれた建物が「一棟の建物」であると客観的に証明する方法はあります。
こういう渡り廊下でつながれても「一棟の建物」とはなりません。
まず、渡り廊下部分の面積も登記簿上床面積に含まれている必要があります。
渡り廊下部分の面積が建物の床面積に算入されていなければ、2つの建物が分断されている状態であり、2つの建物を建物でないものでつないでも「一棟の建物」とはなりません。
さらに、一棟の建物として建築基準法と消防法の基準を満たしている必要があります。
一棟の建物であるとして許可申請をする場合、既存部分が現在の法令基準を満たしていない場合、増築部分と同様の法令基準を満たす必要があります。そのため、既存部分も耐震補強工事等を行う必要が生じる場合があります。
また、一棟の建物であるとして許可申請する場合、既存部分と増築部分を合計した面積で要求される法令基準を満たす必要があります。そのため、消防用設備等の設置単位を超えてしまい、設置工事費等の費用が余計に掛かってしまう可能性があります。
「渡り廊下」でつながれた建物が「一棟の建物」として登記や申請ができても、手続きやコストの面からするとデメリットも大きいといえます。
ですが、1つの敷地内に2棟の建物それぞれに日常生活で最低限必要な水回り3点セットが設置される設計の場合、渡り廊下でつながないと許可が下りないという自治体もあったりもするようです。
結局のところ、2棟の建物を渡り廊下でつないで「一棟の建物」と認めてもらうのは非常に厳しいです。
それならば、「離れ」を作るか、上下左右で一体となった二世帯住宅を建てましょう。
もしくは、被相続人と相続人が「生計を一にする親族」であれば、相続人の居住の用に供されている建物の敷地も小規模宅地の特例を適用可能となります。
2つの建物登記区分の名義を統一すれば良いのでは?
また、「一棟の建物」を区分登記している場合、別々の名義となっている2つの建物登記区分をいずれか一方の名義にすれば、「被相続人の親族の居住の用に供されていた部分」も含めて小規模宅地の特例を適用することができるのかというと、できません。
「建物の区分所有等に関する法律第一条に該当する建物を除く」とされているので、区分登記そのものを解消し、一戸建てとして合併登記をし直す必要があります。
したがって、他人も居住する同じマンションに、被相続人と被相続人の親族が生活していたとしても、「建物の区分所有等に関する法律第一条に該当する建物」でなくすることは事実上不可能であるため、「被相続人の親族の居住の用に供されていた部分」に係る敷地について小規模宅地の特例を適用することはできません。