相続税の税務調査率は高い?

相続税の調査率は何%?

国税庁により公表されている情報をもとに調査率を計算すると、相続税の調査率21%となっております。

平成28年 平成29年分
@相続税の申告書の提出に係る被相続人数 105,880 111,728
A実地調査件数 12,116 12,576
B申告漏れ等の非違件数 9,930 10,521
B/A非違割合 81% 84%
C簡易な接触の件数 8,995 11,198
D申告漏れ等の非違件数 5,771 6,995
D/C非違割合 64% 62%
A+C実地調査・簡易な接触合計 21,111 23,774
(A+C)/@調査接触率 20% 21%

 

税務調査が別世界のことだと思っている方々

 相続税を申告される方の中には「調査なんて運が悪くなければ来ないでしょ?」とか「うちの金額じゃ来ないでしょ?」という方が結構いらっしゃるのには驚きます。
 特に相続税を扱う税理士としては、ついつい調査が入ることを前提にいかに調査や指摘の可能性を下げるかを前提に説明をしてしまうのですが、納税者の方にとっては、「申告書の作成なんか面倒だから代わりに作ってほしい」とか、「自分でほとんど作成済だからその分値下げしてほしい」とかいったことを言われる方も少なからずいらっしゃり、そういう方に、税務調査対策の説明をすると、顧客がもともと欲しくなかったニーズを掘り起こすような、私の最も嫌いな詐欺まがいの営業トークをしてしまっているような感じになってしまうので、このページも含め冷静に考えながら情報を入手していただければいいなあと思います。
 普段税務申告を扱っている税理士と一般納税者との認識のギャップを埋めることが必要だと感じています。

 

なぜ税務調査が入らないと思ってしまう?

 なぜ税務調査が入らないと思ってしまうのかを分析しました。
 ほとんどの納税者の方は税務調査を経験する機会が無いので、別の世界のことだと思われているようです。
 戦後の民主主義教育を受けた世代では、「悪いことをしなければ警察も取り調べに来ないのと同様に、税務署も悪いことをしなければ調査に来ない」という意識の方が多いようです。
 一般の給与所得者の方は税務調査を経験することはまず無いと思いますが、給与所得者の中でも経理部門にお勤めの方などは、税務調査がそこそこあると認識しているようです。法人税の調査率がある統計だと3%程度だとのことらしく、相続税の調査率と比較すると著しく低く感じられますが、法人税の場合は、1回の調査で3〜5年分の申告書を調査するため、実際の調査率は9%〜15%程度ということになり相続税と比較してもそれほど低くはありません。
 最も税務調査について意識が薄いのは個人事業主のように感じます。個人事業主の場合は、所得税の調査率が0.3%程度となり、ほとんど税務調査が入らないということになります。「毎年確定申告していてしかも自分で適当に申告していても税務調査が入らないのだから、相続税でも税務調査が入るわけがない」と思われる方が多いようです。
 個人事業主の確定申告の場合は、とにかく申告対象件数が多く、税務署も税理士もさばききれない程であるため、税務署も自分で間違いなく申告できるように、かなりの予算をかけてわかりやすい手引きを作成したり、確定申告書作成サイトを開設したりしているため、税理士の代理申告率も低く、自分で申告されている納税者がほとんどです。
 相続税の申告を仮に自分でされるとすると、当然調査率が21%よりもアップすることになります。

 

簡易な接触とは?

 税務署は、実地調査のほか、文書、電話による連絡又は来署依頼による面接により申告漏れ、計算誤り等がある申告を是正するなどの接触を実施しています。この「簡易な接触」を平成30年11月に初めて公表するようになりました。
 税務署としては、「ちゃんと仕事をしているようにアピールしたい」「適正な申告を増やして税収をアップしたい」という思惑があり、相続税の調査率をアップさせるように、実地調査件数のノルマも職員に課しています。それでも、基礎控除減少と高齢化による申告件数の増加や、税務職員数の減少によりなかなか実地調査率をアップさせることができなくなってきました。さらに、マイナンバー制度の導入やKSK(国税総合管理)システムの強化により、実地調査をしなくても、机上調査で被相続人の財産状況や預貯金の移動状況を把握できるようになり、「簡易な接触」で申告漏れ等を指摘できる可能性が高まりました。
 そこで、「簡易な接触」の件数を増加させ公表するに至ったのだと思われます。
 「簡易な接触」とは言っても、税務署から急に電話連絡が来ると焦ってしまって誤った回答をしてしまう可能性もあります。ナンバーディスプレイが利用できる様であれば、税務署の電話番号を電話帳に登録しておきましょう。固定電話などでナンバーディスプレイの設定ができない方は、申告書には固定電話ではなく携帯電話の番号を記入しておきましょう。

 

実際に指摘される項目は?

 「うちの相続財産には土地が含まれていないから簡単でしょ?」という方、
 国税庁から公表されている申告漏れ相続財産の金額の構成比の推移です。
税務調査指摘項目

 

 現金・預貯金等が最も多く指摘されています。
 「現金なんて結局調べても分からないし、預貯金も口座残高を入れるだけだから普通に申告すれば調査で申告漏れの指摘なんてありえない」と思われることでしょう。
 しかし、税務署は残高だけを確認して済ませるわけではありません。
 税務署はまず被相続人の預金の不明な出金をとことん調査します。
 被相続人の預金の出金は、被相続人の財産を減少させることになります。
 したがって、「不明な出金を見逃してしまうと、相続税を納税する人がいなくなってしまう」ことにつながるため、執拗なまでに不明な出金を追求します。
 相続税という制度が存続できるか否かの問題であるため、そこは税務署も採算度外視で徹底的に調べます。
 調査の結果不明な出金のうち一部分でも、それが少額であっても修正申告させることができれば、「相続税制度維持のためによく頑張ってくれた」という評価につながるわけです。
 出金が、生活費や旅行ギャンブルなどの消費的な趣味、贈与税基礎控除以下の贈与、贈与税申告されている贈与などと説明することができて認定されれば良いのですが、認定されずに不明なままだと、追加で相続税本税が加算され、加算分の過少申告加算税15%が加算される可能性があります。
 税務署は不明な出金について、どこかに現金を隠しているか、贈与税申告が無いまま贈与されているはずだと主張します。
 納税者はどこを探しても現金が見つからず、もらった覚えもないと主張します。
 結局双方とも証明ができないため、例えば1000万円の不明な出金があれば、「半分の500万円の申告漏れとしましょう」ということで双方和解が成立し修正申告することで調査終了となるわけです。
 参考となる裁決事例としては下記の事例があります。

被相続人の相続開始数日前に相続人によって引き出された多額の金員は、被相続人によって費消等された事実はないことから相続財産であると認定した事例(平成23年6月21日裁決)
 通常想定し得る金員の流出先についてみても、本件金員が費消等された事実はなかったのであるから、本件金員は被相続人によって費消等されなかったと認めることができ、ほかにこれを覆すに足りる証拠はない。したがって、本件金員は、本件相続の開始時点までに被相続人の支配が及ぶ範囲の財産から流出しておらず、本件相続に係る相続財産であると認められる。

 この裁決事例では、相続開始数日前に出金があった事例ではありますが、相続財産であったと判定されており、出金が相当過去であったとすれば、相続財産であったと断定されなくとも、やはり間を採るような修正申告を求められることになります。
 賃貸住宅や介護施設にお住いの親族を亡くされた方は、住居を引き払う際に要注意です。亡くなった方の古い通帳は捨てずに保管しておきましょう。また、趣味については、旅行の思い出の写真やパスポート、競馬新聞、ハズレ馬券、なども捨てずに保管しておきましょう。
 また、口頭で基礎控除以下の贈与であって、口頭で「あげる」「もらう」の同意があって、贈与税の時効が成立していても、贈与契約書が無ければ、「実際は借りただけのお金で、貸した方の被相続人には返還請求権があったのではないか?」「実際は勝手に相続人に送金したので、被相続人に不法行為損害賠償請求権があったのではないか?」という疑念を持たれ、修正申告しないと調査が終了しないということもあります。
 さらに、税務署の「任意調査」(行政法学上は「間接強制調査」)では黙秘権が無いため、不明な出金について質問されたときに回答しなければ罰則が科される可能性があり、適当に答えた内容が税務署の調査結果と異なれば虚偽の回答とみなされやはり罰則が科される可能性があります。罰則が科されなかったとしても、申告漏れを故意に隠したとみなされれば申告漏れ分の40%重加算税として課されることになります。
 特にご自分で申告される場合には、税務調査で誤った回答をしないためにも、相続税申告の段階で被相続人の預貯金口座の不明な出金について内容を確認し、正確に回答できるようにしておきましょう。

 

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