個人事業主から法人成りの目安となる所得は?

個人事業主から法人成りを検討するにあたり、

「所得税は累進課税だから所得が大きくなるほど税率が高くなってしまうため、所得税率が法人税率を超えるほど所得が大きい場合は法人成りしたほうが節税になる。」

と説明する税理士もいたりするらしいですが、それは全くのデタラメです。

この理屈は、法人成りした場合に社長がもらう役員報酬が年間103万円以下(所得控除が基礎控除のみの場合)の場合のみ成り立ちます。

所得税率と法人税率を比較すること自体、ほとんど意味のないことです。

個人事業主も会社経営者も、利益(自分の給料控除前)をあげて、その利益から自分が給料をもらいます。個人事業主の場合は、利益=自分の給料となります。

  1. 個人事業主の場合は、事業と個人が一体
    • ⇒所得税+個人住民税(事業所得)のみ
  2. 法人役員の場合は、法人と個人が別人格
    • 法人税+法人住民税+所得税+個人住民税(給与所得)

つまり、利益(自分の給料控除前)に対する1.所得税+個人住民税(事業所得)と2.法人税+法人住民税+所得税+個人住民税(給与所得)の両者を比較するべきなのです。そして、2.の場合、個人が生活していかなければならず、給料(役員報酬)をもらわないわけにはいかないため、所得税(給与所得)はゼロにはできないのに対し、役員報酬控除後の利益がゼロ以下になってしまい法人税がゼロになることは考えられます。したがって、2.の場合、必ず検討すべき重要な税金は、所得税(給与所得)であって、法人税ではないのです。

まだ、余って積み立てておくほどは利益が出ていなくて、利益が出ればそのまま自分の給料としてもらっておきたいと仮定した場合※は、法人の利益がゼロとなり、法人税と法人住民税(法人税割)はゼロになりますが、法人住民税(均等割最低7万円)は残ります。

※あくまで仮定です。役員報酬が損金として認められるには定期同額給与等の制約があります。

したがって、

  1. 個人事業主の場合の所得税(事業所得)
  2. 法人役員の場合の所得税(給与所得)+法人住民税(均等割最低7万円)

の両者を比較するのが、最も単純で分かりやすいでしょう。

税額だけで比較した場合、

  1. 事業所得では、青色申告をすれば青色申告特別控除の65万円しか所得控除が無い
    • (α※-65万円)×(所得税率※+住民税率)
  2. 給与所得では、最低65万円、最高220万円(給与支払額1,000万円超の場合)の給与所得控除がある
    • (α※-給与所得控除)×(所得税率※+住民税率)+法人住民税(均等割最低7万円)
  • ※α=利益(自分の給料控除前)-各種所得控除(配偶者控除等)
  • ※所得税は超過累進税率のため、一つの税率ではありません。

つまり、1.個人事業主の場合の税額-2.法人役員の場合の税額

=(α-65万円)×(所得税率+住民税率)-{(α-給与所得控除)×(所得税率+住民税率)+法人住民税(均等割最低7万円)}

=-65万円×(所得税率+住民税率)-{-給与所得控除×(所得税率+住民税率)+法人住民税(均等割最低7万円)}

=(給与所得控除-65万円)×(所得税率+住民税率)-法人住民税(均等割最低7万円)

がゼロを超えるかどうかが、法人成りによって税金に関して損するか得するかの目安になります。

つまり、給与所得控除による減税効果が7万円を超えるかどうかが目安となります。

扶養親族が1人の場合、利益(自分の給料控除前)が概ね269万円を超えると、法人成したほうが税金が安くなります。

しかし、これはあくまでも税金に限定したお話です。

法人成りすると、法人は社会保険適用事業所となり、役員も社会保険に加入しなければなりません。したがって、国民健康保険・国民年金と社会保険の比較も必要となります。社会保険がまた高いので後日検討します。